ホビットはどう撮ったら小さくなる?ビルボとガンダルフの体格差を生んだ5つの工夫

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小さな体で、大きな冒険へ。『ホビット 思いがけない冒険』の楽しさは、立派な英雄ではない主人公が、居心地のよい家を飛び出していくところにあります。しかも、隣に立つ魔法使いは、見上げるほど大きい。この体格差は、どうやって撮ったのでしょうか?

主人公のビルボは、ホビットという小柄な種族の大人。舞台は、人間や魔法使いなどが暮らす架空の世界「中つ国」です。穏やかに暮らしていたビルボは、魔法使いガンダルフに誘われ、別の種族であるドワーフたちの旅に加わります。目的は、竜スマウグに奪われたドワーフの王国を取り戻すこと。自分に何ができるのかもわからないまま、思いがけない危険へ向かう物語です。

出典:Warner Bros.公式作品紹介、Computer Graphics Worldの作品・制作紹介

この記事では、同じ中つ国を描く二つの映画の撮影を比べます。まず作品の関係だけ、整理しておきましょう。

  • 『ロード・オブ・ザ・リング/旅の仲間』:ビルボが託した指輪をめぐり、別のホビットであるフロドが旅立つ物語。映画はこちらが先に作られました。第1〜4節では、年老いたビルボやガンダルフを撮るための工夫を紹介します。
  • 『ホビット 思いがけない冒険』:後に作られた、ビルボの若いころの冒険を描く作品。物語の時代は『旅の仲間』より前です。第5節では、この映画の3D撮影に合わせた工夫を紹介します。

出典:American Cinematographerの『旅の仲間』紹介・撮影取材、Animation World Networkの『ホビット』制作者取材

俳優を小さくするだけでは、同じ場所にいるようには見えない。遠近法、部屋の大きさ、別々の撮影をつなぐ工夫。映画を見る目が少し変わる、5つの仕掛けをたどります。

※ここからは物語の導入と撮影方法に触れます。結末の具体的な展開は紹介していません。

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1.向かい合っている二人が、実は離れていた?

遠くにいる人は、小さく見える。この見え方を利用し、同じくらいの距離にいるように装うのが強制遠近法です。

『旅の仲間』で視覚効果(VFX)を統括したジム・ライジールは、ビルボがガンダルフにお茶を出す映像で、この方法を使ったと説明しています。画面では向かい合っているようでも、ビルボ役はガンダルフ役よりカメラから遠い位置にいました。

出典:American CinematographerのVFX制作取材

ただ後ろへ下がるだけでは、「遠くにいる人」に見えてしまいます。背景や家具を含め、カメラからどう重なって見えるかを整えるのがポイント。観客が見ているのは、撮影現場そのものではなく、レンズを通した一つの景色なんですね。

袋小路屋敷の温かな食卓でお茶を用意する年老いたビルボと、ゆったり座る大きなガンダルフ。丸窓からの光が二人を照らす。
『旅の仲間』のビルボとガンダルフを題材に、画面で感じる体格差を描いたAI生成イラスト。公式素材や本編のカットではなく、実際の撮影配置を再現した図でもありません。
同じテーブルにいるように見えたのに、そんなに離れていたの?
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2.ガンダルフが大きいのは、部屋が小さいから

大きな椅子に座れば、自分が小さくなったような気分になることがあります。中つ国でも、周囲の物との比較が体格の見え方を支えていました。

『旅の仲間』では、ビルボの住まい「袋小路屋敷」の内装を、大小の撮影セットで用意。ホビット役に合うセットと、それより小さなセットを使い分けました。ガンダルフのような役柄を小さいほうで撮ると、部屋に対して人物が大きく見えるのです。照明とカメラワークも合わせていました。

出典:American Cinematographerの撮影取材

同じ家のはずなのに、ある人には居心地がよく、ある人には窮屈そう。その差があるだけで、ホビットの暮らしを少し身近に感じられます。次に観るときは、顔だけでなく、天井や家具と体の釣り合いにも注目してみてください。

袋小路屋敷をモチーフにした大小二つの室内。左はビルボの上に余裕があり、右はガンダルフの頭の近くまで梁が迫る。
『旅の仲間』の大小のセットを説明するAI生成イラスト。人物の描画高をそろえ、部屋や家具の大きさを変えています。公式素材や実際の設計図、俳優の実身長比較ではありません。
ぼくも大きな部屋に入ったら、冒険の主人公みたいに見えるかな?
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3.後ろ姿は別の人?「同じ人物」をつなぐ撮影の工夫

人物の大きさを表すために、別の出演者が役を引き継ぐ方法もあります。役柄の体格に合う代役を使う、スケールダブルという方法です。

『旅の仲間』の撮影取材では、背の高いダブルを肩越しにホビットを見る構図などに、ホビットの体格を表すダブルを顔の見えない引きの構図に起用したと紹介されています。

出典:American Cinematographerの撮影取材

さらに、青い背景の前で別々に撮った人物を、後から同じ画面へ組み合わせるブルースクリーン合成も使われました。遠近法だけで全ショットを撮り切ったわけではありません。

出典:American CinematographerのVFX制作取材

顔を見せたいのか、全身を見せたいのか。会話の距離感を大切にしたいのか。それぞれの映像の構図に合う方法をつなぐことで、私たちは一人の登場人物として追いかけられるのです。

顔が見えない一瞬まで、ちゃんと「同じ人」に見えるのがすごいね。
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4.カメラが動いても、小さく見える魔法が解けない理由

一つの場所から見ると成立する仕掛けも、見る位置が変われば、奥行きの違いが分かりやすくなります。では、カメラはずっと固定していたのでしょうか。

『旅の仲間』の撮影監督アンドリュー・レスニーによると、大きさの違う小道具をカメラの動きと連動させる仕組みが作られました。カメラや装置の動きを機械で精密に制御するモーションコントロールを使い、カメラが移動しても、二人の俳優がその場で演じながら体格の差を見せられるようにしたのです。

出典:American Cinematographerの撮影取材

カメラだけが動いていると思ったら、その外側でも仕掛けが働いている。静止画のような錯覚を、動きのある映画に持ち込むところが面白いですよね。

平らな絵にも、動きで奥行きを感じさせる工夫があります。『ピノキオ』の村とマルチプレーンカメラの記事では、門や家並み、丘を使った架空の例で紹介しています。

カメラが動いたらバレそうなのに……道具のほうも動いていたんだ!
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5.若いビルボの冒険では、別々の部屋で同時に芝居

ここからは、若いビルボが主人公の『ホビット 思いがけない冒険』の話です。この映画では、左右の目に違う映像を届けて奥行きを感じさせるステレオ3D撮影が加わりました。二つの視点で自然に見せる必要があり、従来の遠近法の工夫を、そのまま使いにくい場面が出てきます。

ここで活躍したのが、二つのセットを同時に撮影する方法。ビルボやドワーフ役が演じる大きめのセットと、ガンダルフ役などが演じる、合成用の緑色の背景を備えたセットを用意し、それぞれのカメラの動きを異なるスケールで連動させました。

出典:fxguideの撮影・VFX取材、Animation World Networkの制作者インタビュー

撮影時には二つの映像を重ねて確認でき、人物が同じ場所にいるように構図を決められました。VFX監督エリック・セインドンは、立体映像の奥行きを合わせる調整も必要だったと説明しています。

出典:Computer Graphics WorldのVFX取材

別室だからといって、相手の演技を後日撮るとは限りません。音声をつなぎ、視線の目印には小さなLEDを使っていました。大きさだけでなく、同じ場面で反応し合う演技を成立させる工夫だったのです。

なお、レスニーは簡単な遠近法の工夫が使える場合もあったと話しています。「『ホビット』は3Dだから遠近法を一切使っていない」と言い切ると、この使い分けを見落としてしまいます。

出典:fxguideの撮影・VFX取材

上段は若いビルボたちが演じる袋小路屋敷のセットと、別室のグリーンスクリーンで演じるガンダルフ。下段の合成画面では大きさの違う人物たちが同じ部屋にいる。
『思いがけない冒険』の別セット同時撮影を説明するAI生成イラスト。下は撮影中に見る合成のイメージです。配置と機材は簡略化した創作で、公式素材や実際の舞台裏写真ではありません。
別の部屋にいても、一緒にお芝居していたんだね。画面の外まで気になってきた!
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まとめ:体格差の仕掛けが、小さな主人公の冒険を本物にする

ホビットの大きさは、遠近法、大小のセット、スケールダブル、合成、カメラを連動させる仕組みなど、いくつもの方法で表現されていました。『旅の仲間』での工夫と、ステレオ撮影の『思いがけない冒険』での工夫には、共通点も違いもあります。

次に観るなら、ガンダルフとホビットが並ぶ画面で、家具の大きさやカメラの動きを少し気にしてみてください。仕掛けを知ったうえで、それでも二人が同じ世界にいると感じられる。そこにも、この冒険映画を楽しむ面白さがあると思います。

次は仕掛けを探すつもりが、また冒険に夢中になりそうだね。