【ミスト】2007年公開アメリカ映画。ある日町が濃霧に包まれた。霧のなかには「何か」がいる。突如あらわれた謎の濃霧によって逃げ場を失った人々の恐怖を描く伝説のSFパニックホラー。
映画情報
濃霧からやってくる未知の生物による襲撃や、閉じられた空間の中で行われる人間同士の争い、集団心理による狂気。極限のストレス状態のなか徐々に正常さを失う人々。そんななか主人公は息子を守るため正しい選択をしようとするが・・。公開から10年がたつ今も語り継がれる絶望のラストを堪能せよ。
原作は巨匠スティーブン・キングの同名小説「霧」。公開当時、原作と異なるラストに世界中から賛否両論が巻き上がったが、現在では熱狂的なファンもいる映画。現在、海外ドラマ版が放送中。
原題:The Mist
上映時間:125分
監督:フランク・ダラボン
出演者:トーマス・ジェーン(デヴィッド・ドレイトン)、マーシャ・ゲイ・ハーデン(ミセス・カーモディ)、ローリー・ホールデン(アマンダ・ダンフリー)ほか
あらすじネタバレを感想つきで紹介!
※ここからはネタバレを含みますので鑑賞前の方は気をつけてください。
あらすじ1/9「嵐と霧」
アメリカ郊外にデヴィッド・ドレイトンは住んでいました。妻のステファニーと8歳になる息子ビリーと3人で湖の近くで暮らしていました。
ある日、嵐が町を襲いました。翌日デヴィッドの自宅は倒木や窓ガラスが割れていて深刻な被害にあっていました。
デヴィッドは家の修理をするため、息子を連れて車でスーパーに出かけました。
主人公デヴィッドの職業は画家でそこそこ有名だったそうな。きれいな奥さんと可愛い子供に囲まれて幸せそう。
あらすじ2/9「混乱」
デヴィッドたちがスーパーに入ると、誰かの叫ぶ声がしました。
「霧の中に何かいる!ドアを閉めろ!」
サイレンの音と共に初老の男性ダンが店内に駆け込みました。スーパーの外を見るとそこにはあたりを包む濃霧が立ち込めていたのです。
地震のような揺れが起こりスーパー全体を揺らしました。皆は混乱し、地震なのか、それとも近くの工場で化学薬品が爆発したんじゃないかと騒ぎ出します。カーモディという女性は「最後の審判の日がきた」と言います。
店内は混乱します。ひとりの女性が家に残してきた子供たちが心配だから、誰か家まで送ってほしいと言い出しました。しかし誰も応じようとはしません。女性は失望した様子で周りの制止を振り払い、ひとり霧の中に消えていきました。
霧の中に飛び出していった女性。どうなるんだろう‥。子供のためとは言え、この状況で外に出れるのはすごい。
あらすじ3/9「最初の遭遇」
デヴィッドは息子のため毛布を取りにスーパーの倉庫裏に向かいます。倉庫裏ではシャッターが何かに押し破られようとしていました。
デヴィッドは顔なじみの店員オリーたち数人に今見たことを話してもう一度倉庫裏に行きました。
若い男性店員のノームたちがシャッターを半分ほど開け、外の様子を見ようとしたその瞬間、タコのようなうねうねとした巨大な触手がノームの足に絡みついたのでした。デヴィッドたちは抵抗するが、手が離れてしまいノームは触手とともに外の霧へと飲み込まれていきました。
デヴィッドたちは慌ててシャッターを閉めました。そしてシャッターに挟まった触手の先端をオリーは斧で叩き切ったのでした。
タコの触手がうねうね動いていて気持ち悪い笑。店員のノームの足からは血が噴き出してるし、自分だったらと思うとぞっとする!
あらすじ4/9「派閥の形成」
デヴィッドたちは店内のいる人たちとなんとか協力し合って、スーパーの補強をおこないバリケードをつくりました。いつしかスーパーマーケットの中には派閥が出来始めていたのでした。
- ①外に出たい人たち
- 弁護士ノートンを中心に形成されました。異形の存在を信じていない現実派です。スーパー内に漂う狂気にも近い不穏な空気を怖がっており、外に出たいと模索しています。
- ②異形の危険性を知った人たち
- デヴィッド、オリー達を中心に形成されました。異形の存在を目の当たりにしているので臨機応変に対応して皆と協力したいと考えている反面、一部の人たちに恐怖を感じています。
- ③無派閥の人たち
- 特に考えがあるわけでもなく場の状況に飲まれてスーパーにとどまっている人たちです。大半の人たちはここに分類されます。なにか異常なことが起こっていることはわかっているが、積極的に何かをしようとするよりは、ただ様子をみています。(のちに狂信派に加わります。)
- ④狂信派の人たち
- 最後の審判を信じるカーモディを中心に形成されました。異形の存在を信じ、それが最後の審判による試しであると妄信しています。当初はまわりから相手にされていなかったが、徐々に勢力を拡大させていきます。
危機的状況に陥るとどうしても頼りになるリーダーに人が集まるみたい。そうやって派閥ができてしまうのは人間の本能なのかな。
あらすじ5/9「夜の襲撃」
暗くなってきたのでスーパーにあったろうそくを使い、明かりを照らすデヴィッドたち。
するとバスケットボールほどある奇妙な虫がガラスに張り付いてきました。その虫はスーパーに入ろうとしていました。やがて次々と異形の虫は集まってきました。光に吸い寄せられる蛾のように集まってガラスを割ろうとしています。そこに巨大な翼竜のような化け物も数体あらわれ、ガラスは突き破られたのでした。
あたりは阿鼻叫喚のカオスとなり、悲鳴があちこちで鳴り響きます。異形の化け物たちは次々と人間を襲っていきます。虫に刺されてぱんぱんに腫れあがり死んでいく人たち。翼竜に食われる人たち。デヴィッドは息子を守るため、たいまつに火をつけてあらがい、オリーは銃で応戦し、死傷者を出したもののなんとか化け物たちを追い払うことに成功しました。
ここのシーンは個人的に大好き。緊迫感と張り詰めた空気からの怒涛のように悲鳴と絶望が広がっていく感じがたまらない。そんななかでも必死にあらがうデヴィッドたち、カッコいい!!
あらすじ6/9「アローヘッド計画」
重傷者のための薬を手に入れるべく隣の薬局へ行っていたデヴィッドたちがスーパーに戻ると雰囲気は一変していました。狂信派のカーモディのまわりにぞろぞろと大勢が集まって祈りを捧げていたのです。
デヴィッドは薬局にいた軍人が死ぬ間際にくり返された謝罪の意味が気になっていました。デヴィッドは、スーパーの店内に残っていた軍人にデヴィッドは事の真相を話せと言いました。軍人は最初こそ口ごもっていたが、次第に知っていることを話し始めようとしました。
しかしそこでカーモディの信者に見つかってしまいました。信者たちは皆の前で説明しろと強引に軍人をカーモディのところに連れていきます。おどされた軍人の男性は米軍がひそかに進めていた「アローヘッド計画」について話し始めました。
あらすじ7/9「別次元の生物」
この世界には今いる世界とは異なる、別次元の世界が多数あり、そこには想像を超える世界と生命があるそうです。米軍は秘密裏にそれを観察、研究するための窓を設置していたが、その窓が何らかの事故で扉となってしまったのでした。その影響で異次元のひとつと繋がってしまい、異次元の住人たちがこちらの世界になだれ込んできたのではないかと話しました。
それを聞いたカーモディは怒りに震え、信者たちに命令して軍人をナイフで刺しました。そして異次元の神(化け物たち)に贖罪の供物として捧げろと命令します。信者たちは軍人をスーパーの外に放り出し、ほどなくして軍人は巨大な化け物の餌食となりました。
これ以上ここにいるのは危険だ。息子を守らなければ。デヴィッドは早朝に脱出することを決意しました。
人間の究極の怖さはこの狂気への同調にあると思わせるシーン。
戦争時やこういった絶望的状況に立つと、人は何が正常で何が異常なのかが麻痺してくるって聞いたことがある。
こうなったカーモディたちは主人公たちにとってはある意味で化け物よりも恐怖の対象なんだろうな。
あらすじ8/9「一か八かの脱出」
早朝になるとデヴィッドは事前に逃げようと相談を持ちかけた数人と一緒に食料を持って駐車場の車に向かいます。
しかし、待ちかまえていたカーモディの信者に取り囲まれてしまいました。カーモディは息子のビリーを生贄にするから差し出せといいました。
銃声が鳴りました。オリーです。弾はカーモディのおなかと眉間に命中しました。倒れるカーモディ。呆然とする信者たちのスキをついて、デヴィッドはビリーを連れ出してスーパーを脱出しました。
途中、犠牲を出しながら何とか車に乗り込むと、残っていたのは老夫婦ふたりと学校教師のアマンダと息子のビリー4人だけでした。
スーパーから車に乗り込む間の距離で一緒に逃げようとしていた仲間たちが次々と化け物にやられてしまったんだ。あの頼りになるオリーもここでやられてしまっているよ。悲しい。
あらすじ9/9「最後の決断」
デヴィッドはゆっくりと車を運転しながらわが家へ着くと、妻が死んでいるのをそっと確認しました。ショックを隠しながら車に乗り込み、まっすぐに車を走らせます。
いくら走らせても霧は晴れませんでした。やがてガソリンがなくなり、車はゆっくりと停車しました。霧はなにも変わらずあたりを白く包んでいます。車内には沈黙だけが残っていました。
デヴィッドは車の中にあった銃を取り出します。弾を確認すると4発しかありませんでした。車内には自分を含めると5人います。一発分足りません。デヴィッドは後ろを振り向き、皆に言いました。
「僕は何とかする。」(なんとか死ねる方法を探すよという意味)
アマンダは静かに泣きながらうなづきます。老夫婦も肩を寄せ合い、目をつぶりました。息子のビリーはすやすやと眠っています。
そして4発の銃声が流れました。
車内には、デヴィッドのすすり泣く声だけが聞こえています。すすり泣く声はやがて叫び声に変わり、銃を何度も自分のこめかみに押し付けて引き金を引くが、弾は入っていません。
デヴィッドは車の外に出ました。
「さあ来い!化け物!さっさとやれ!!」
遠くで不気味な音が聞こえてきます。
デヴィッドが覚悟していると、霧の中をゆっくりと、戦車があらわれたのでした。そしてせきを切ったかのように軍隊もあらわれました。軍隊は霧を晴らしていき、化け物を撃退していきます。軍用車や装甲車には、救助された人々が乗っていました。あっけにとられてて事態が飲み込めないデヴィッドだったが、救助された中に最初にスーパーを飛び出していった女性も乗っていました。
デヴィッドはようやく助かったことを理解します。同時に自分がおこなった選択を激しく後悔しました。泣き崩れて慟哭するデヴィッド。そしてまわりには救助に来た軍人たちがデヴィッドに優しく声をかけていたのでした。
これは、きつい‥。まさか自分だけが助かるなんて‥。
死んでバッドエンドじゃなく、生き残ってバッドエンドってあまり見ない終わり方だからちょっと衝撃。
映画に出てきたクリーチャー(怪物)一覧
クトゥルフ神話の世界観をもとに作られたと言われる映画ミストのクリーチャーたち。独特のグロさと異様な造形がなんとも得難い神々しさを醸し出しています。
触手型クリーチャー
シャッターの隙間から主人公デヴィッドたちに襲い掛かった化け物です。全体像は不明ながら、触手には吸盤の代わりに小さな牙が無数に生えていて掴まれただけでも、皮をそいで血を噴出させます。
昆虫型クリーチャー
夜、スーパーのガラスに張り付いてきた昆虫型クリーチャーです。蚊とハチとサソリを合わせたような造形をしています。手のひら大サイズですが、これに刺されると
顔がぱんぱんに腫れあがって死にます。数が多いためかなり厄介です。
翼竜型クリーチャー
昆虫型クリーチャーを捕食しようとあらわれた飛翔するクリーチャーです。大きさは大型犬からライオンくらいのサイズです。昆虫型クリーチャーを食いに来たくせにスーパーのガラスが割れると、ちゃっかり人も食べます。空から突進してくるのでめちゃめちゃ怖いです。
大蜘蛛型クリーチャー
薬局にいた子蜘蛛クリーチャーの親だと思われます。可燃式のスプレーに火をつけて撃退しました。個人的には親蜘蛛よりも、わしゃわしゃ無数に生まれた赤ちゃん蜘蛛
に鳥肌が立ちました。
大蟹型クリーチャー
スーパーの駐車場にいた巨大なはさみをもつ蟹型クリーチャーです。動き自体はそこまで早くありませんが、他のクリーチャーに気をとられていると、ひょいと挟まれて食べられてしまいます。
巨大親玉クリーチャー
車のなかで見かけたビルほどの高さがある巨大なクリーチャーです。頭からうねうねした触手みたいなものを伸ばしているので、触手型クリーチャーの大元ではないかと思われます。主人公たちに目もくれずただ歩いているだけですが、その巨大さに息をのみました。
原作ラストは映画とは全然違う?!
衝撃の鬱映画、ミストのラストは原作とは違うってこと知っていましたか?
ミストの原作は1980年に巨匠スティーヴン・キングによって書かれた中編小説『霧』をもとに作られています。映画ミストは終盤までおおむね原作通りに忠実に進んでいきます。しかしラストに限って少し内容が改変されているんです。
映画ミストの結末
映画ミストでは主人公たちが車に乗って当てどもなく走ります。そしてガソリンが尽きたところで、主人公が息子や仲間を銃で撃ち、自分も死のうと外に出ます。しかし、死ぬ決意をした主人公の気持ちとは裏腹に軍が大挙して目の前の霧を晴らし、化け物たちを駆除していきます。自分だけが助かったことに対する絶望が主人公を襲い、むせび泣きながら映画は終わります。
小説原作『霧』の結末
一方、原作『霧』でもスーパーをあとにして車で出発するまでは同じです。しかしここからが違います。原作では主人公たちは車で霧の中を進みながら一夜を過ごしたり、ガソリンスタンドに寄ってガソリンを給油したりします。
そして、ラジオからノイズ混じりのある単語が聞こえてきます。ひとつは「ハートフォード(地名)」で、もうひとつは「ホープ(希望)」でした。このラジオの音源は主人公にしか聞こえていなかったようで、ここで原作は終わります。
つまり原作では、嘘か本当か「ハートフォード」という場所が唯一化け物や霧の災難から逃れられる「希望の地」として主人公に提示されて終わっているのです。これ以降の続編はないため、霧の正体や主人公たちがどうなったのかはわかりません。しかし映画ミストのラストより少し希望のある最後になっています。
なぜ映画ミストはラストを鬱エンドに改変したのか?
身もふたもない話ですが、映画の都合上、原作通りではインパクトが弱く印象に残りづらいので改変したというのが本音でしょうね。興行上どうしてもインパクトのある終わりにして話題に少しでも乗りたいという気持ちがあったのかもしれません。
監督のフランク・ダラボンはインタビューで「観客に問いを残そうとした。」と発言しています。
ここからは個人的な見解ですが、監督は映画の主人公もしくは人という生き物は必ずしも正しい選択ができるわけではないということを言いたかったのではないでしょうか。
正しいと思われる選択をしていても災害は容赦なく人の尊厳を無条理に奪います。僕には主人公の行動を頭ごなしに否定することはできません。時期尚早だったとか、もう少し頑張っても良かったんじゃないかと言うのは簡単です。しかし、あの状況下で正常な判断を下すのはとても難しいように感じられます。
終わることのない閉そく感と恐怖が隣り合った絶望のなかで早く楽にしてあげたいと思うのは決して間違いではないと思います。監督は映画のなかで「あなたならどうしましたか?」と問いかけていたのではないでしょうか。
映画「ミスト」観終わった後の感想
一言でいうと「うそだろ・・。」といった感じですね。絶望です。
バッドエンド中のバッドエンドって感じです。監督はこの映画で既存の主人公像を壊そうとしていたんだろうなあって強く感じました。大体の映画って主人公の行動が必ず結果的に正しかったりしますが、この映画ではことごとく間違えるんですよね。
「最初に外に飛び出した女性を止めずに、一緒に同行していたら」とか、「カーモディが死んだ段階でスーパーに残って皆を説得していたら」とか、「車のガソリンが切れる前に乗り換えていたら」とか、「ガソリンが切れた後もあと少しだけ時間を置いていたら」とか、もしも主人公がこうしていたらって思うことを挙げるとキリないんですよね。
でもそうやって一回観ただけじゃ物足りなくなって何回も観てしまうのはまんまと監督の術中にはまっているのかもしれないです。現に最初は嫌いだったミストですが、今では1年に1回は観たくなるくらい好きな映画になりました。熱狂的なファンがいるのも納得です。設定も秀逸ながら、やっぱり衝撃的でしたね。このラストは。
主人公が最後に死んでバッドエンドじゃなくて、主人公だけ助かるバッドエンドってあまり観ないですし笑。
監督のアマノジャク精神が見え隠れして僕は好きです。やっぱり映画は観る人の想像を超えてこそ真の映画だと思います。その点でミストは想像超えちゃってて最後までドキドキしながら観ることができました。
閉じられた極限状態のなかで、それぞれの選択のどれが正しいかなんて分かりようがないし、常に正しく論理的な行動ばかりとれる人間なんていないってことを教えてくれた映画です。劇中に出てくる異形の化け物の姿はまさしくクトゥルフ神話のイメージぴったりで、クトゥルフの世界観が好きな人はぜひ見てほしい映画です。化け物のデティールもこだわりを感じて霧っていう設定が良いんですよね。
この設定を活かした別の映画が観たいと思っていたので、海外ドラマでミストが始まった時は大喜びしました。
海外ドラマ版では、原作に近いストーリーとなっているので、ぜひこちらもチェックしてみてください!めちゃくちゃ面白いです!
バッドエンドばかり注目される「ミスト」だけどこの世界観や霧っていう発想は斬新だし、人間の狂気も描かれていて個人的には好きな映画。