三味線を弾くと、折り紙が動き出す。少年の旅には、サルとクワガタがついてくる。そんな不思議な冒険を描いた映画が、『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』です。
舞台は、古い日本を思わせる幻想の世界。追われる少年クボは、仲間と旅をしながら、自分の家族に隠された秘密に近づいていきます。(出典:AFI 作品紹介)
けれど、気になるのは怪物との戦いだけではありません。なぜクボは物語を語るのか。大切な人を失ったあと、何が心を支えてくれるのか。冒険の先には、そんな問いも待っています。
今回は、初めて観る人にも知ってほしい作品の魅力から入り、鑑賞後に考えたくなるテーマと、誰かに話したくなる裏話を 8 つ紹介します。前半は大きなネタバレなし。後半は案内を挟んで考察へ進みます。

1 日本の昔話のようでいて 特定の神話の映画化ではない
三味線、折り紙、侍、月の世界。どこかで聞いた昔話のように感じても、「この日本神話が原作」とひとつに決めるのは早計です。ナイト監督は、映画に登場する神々の体系を、自分たちで作った神話だと説明しています。さまざまな伝承に着想を得た、作品独自の世界なんですね。(出典:監督インタビュー(Anime Superhero))
だから、知っている妖怪や伝説と似たものを見つけたら、「同じ存在だ」と断定するより、どこが似ていて、どこが違うのかを考えると楽しめます。民俗学の答え合わせというより、見慣れた要素が新しい冒険に組み替わる面白さに注目です。

2 作品に息づく 監督の子ども時代の記憶
本作の監督はトラヴィス・ナイト。AWN のインタビューでは、8~9 歳ごろに父と初めて日本を訪れた経験や、黒澤明の映画、『子連れ狼』、トールキン作品などへの愛着を語っています。(出典:監督インタビュー(AWN))
「日本っぽい風景がきれい」で終わらせず、侍映画の緊張感と、異世界へ旅するファンタジーのわくわくが、どんなふうに同居しているかを見てみてください。文化の要素をひとつ見つけるたびに、映画の楽しみ方も少し広がりそうです。

3 クボの語り芸は 冒険のおまけではない
クボは戦う少年であると同時に、物語を語り、音楽で紙に命を吹き込む少年です。監督は、彼が村で話をする理由として、父の記憶を保つこと、母を支えること、人とつながることを挙げています。(出典:監督インタビュー(Anime Superhero))
ここからは筆者の見方ですが、語り芸は主人公の特技を見せるだけの場面ではなく、「この子は何を大切にしているのか」を教えてくれる入口と読めます。強い武器を手に入れる前から、クボには人の心を動かす力がある。そう意識すると、物語を聞く村人たちの存在も気になってきませんか。
物語や音楽が家族の記憶をつなぐという視点では、『リメンバー・ミー』の歌と家族の考察も読み比べてみてください(ネタバレあり)。

4 忘れないことが 力になる物語
ここからは、物語全体のテーマと終盤の方向性に触れます。展開を知らずに観たい方は、鑑賞後にお読みください。登場人物の正体や最後の具体的な決着は明かしません。
ナイト監督は、大切な人を失っても、その人を自分の人生の中に携えていけるという考えを語っています。(出典:監督インタビュー(Den of Geek))
筆者はこの視点から、クボの旅を「失ったものを全部取り戻すための冒険」というより、「いなくなった人と、どうつながり続けるかを探す冒険」と読みます。思い出を話す、教わったことをやってみる。そんな身近な行為が、魔法の世界の出来事と重なって見えるところに、本作の余韻があるのではないでしょうか。
記憶が自分を支えるというテーマを別の作品でも考えたい方は、『千と千尋の神隠し』の感想・考察(ネタバレあり)も読み比べてみてください。


5 悪者を倒せば すべて解決するのか
大切なものを奪われたら、怒るのは当然です。監督も、クボの怒りを喪失への自然な反応として説明し、その感情を突き詰める道と、旅で学ぶ道では、物語の行き先が変わると話しています。(出典:監督インタビュー(Anime Superhero))
ここで考えてみたいのは、「勝つこと」と「傷ついた心が救われること」は同じなのか、という問いです。これは筆者による考察ですが、敵の強さだけを追うより、クボが何を選ぼうとしているかに目を向けると、冒険の見え方が変わります。観終わったあと、誰かと話すなら「あの選択に納得できた?」から始めても面白そうですね。

6 美しいのに少し怖いのには 理由がある
人形の映画だから、どんなけがも次の場面では元通り。『KUBO』は、そんな安心だけでできた世界ではありません。監督は、冒頭から痛みや危険が実際に存在する世界だと伝えることを重視したと説明しています。(出典:監督インタビュー(Den of Geek))
だからこそ、筆者には日常の温かさも、旅の危うさも際立って見えます。怖い場面を単なる刺激として数えるより、「守りたいものがあるから怖い」と考えると、作品の美しさと不穏さがつながるのではないでしょうか。かわいい絵柄だけで、幼い子ども向けと決めつけないほうがよさそうです。

7 巨大な骸骨は 本当に巨大な人形だった
ここで、誰かに話したくなる裏話をひとつ。あの巨大な骸骨は、撮影用の大型人形が作られています。
MoPOP と LAIKA の公式展覧会解説では、高さ 16 フィート、約 4.9m。上半身と下半身を分けた撮影や、小型版の使用も紹介されています。(出典:MoPOP・LAIKA 公式展示解説)
高さを 18 フィートとする制作当事者のインタビューもあり、資料間の差の理由は未確認です。この記事では展示解説の値を採用しています。(出典:Steve Emerson インタビュー(AWN))
大きさを知ると、画面でクボたちが小さく見える場面も、ちょっと違って感じられそうですね。なお、全場面を同じ一体だけで撮ったという意味ではありません。


8 手作りの世界を CG の海が支えていた
骸骨が実物なら、海も全部実物なのでしょうか。配給会社 Focus Features によると、制作チームは黒いごみ袋を鉄の格子に張るなどの素材テストを行い、最終的な海は CG で作りました。(出典:Focus Features 公式制作記事)
「ごみ袋で完成映像の海を撮った」「CG を一切使っていない」とは違う話です。素材を試すこととデジタルの画作りが、同じ世界を支えていたんですね。
仕組みを知ったあとも、注目したいのは技術の難しさだけではありません。小さな少年の旅が、どうしてこんなに大きな冒険に感じられるのか。海の広さや怪物との距離にも目を向けると、物語と画面の関係が見えてきそうです。

観終わったあとに もうひとつ考えてみたいこと
一番印象に残ったのは、怪物との戦いでしょうか。それとも、誰かのことを思い出す場面でしょうか。もう一度観るなら、クボが何を手に入れたかだけでなく、何を大切にするようになったかを追ってみてください。最初は壮大な冒険に見えた映画が、少し身近な家族の物語に感じられるかもしれません。



