【万引き家族】2018年公開日本映画。万引きをしながら生活する血の繋がりのない疑似家族の絆を描いた作品。
是枝監督が構想10年をかけて作り上げた今作は家族のつながりと絆について深く考えさせられる作品となっている。
目次
映画情報
キャッチコピーは、盗んだのは、絆でした。
第71回カンヌ国際映画祭で最高賞であるパルム・ドールを獲得。日本人監督作品としては21年ぶりの快挙となった。
原題:万引き家族
上映時間:120分
監督:是枝裕和
出演者:リリー・フランキー(柴田治)、安藤サクラ(柴田信代)、松岡茉優(柴田亜紀)、池松壮亮(4番さん)、城桧吏(柴田祥太)、佐々木みゆ(ゆり)、高良健吾(前園巧)、樹木希林(柴田初枝)ほか
安藤サクラが魅せた名演技に是枝監督絶賛!
安藤サクラさんのプロフィール紹介
今作「万引き家族」で安藤サクラさんが魅せた見事な演技は映画であることを忘れてしまうほどのリアリティーがありました。ここではそんな大女優の安藤サクラさんについて簡単に紹介したいと思います。
安藤サクラさんは1986年2月18日生まれの日本の女優です。父に俳優の奥田瑛二、母にエッセイスト・安藤和津を持つ芸能家族の次女として生まれました。また2012年に結婚した夫は俳優の柄本佑で2017年に第一子となる女児を出産しました。
「万引き家族」の出演依頼があった当時、安藤サクラさんは子どもを持ったことで自身の役者としての考え方が変わったので、出演できるかは分からないと答えたそうです。
それだけ「万引き家族」という題材が安藤サクラさんにとってセンシティブな内容だったことがうかがえます。
安藤サクラさんの他出演作品には、『百円の恋』『DESTINY 鎌倉ものがたり』『0.5ミリ』『追憶』などがあります。
是枝監督が絶賛した涙のシーン裏話
劇中終盤で安藤サクラさん演じる信代が取調室で涙をこぼしながらも気丈にふるまい警察官相手に自白するシーンは実に見事な演技で鳥肌者でした。自分も気づいたときにはもらい泣きしていました。
是枝監督はインタビューの中で、あんな風に泣く女優さんを見たことがないと絶賛しています。
カンヌ映画祭の審査委員長ケイト・ブランシェットもこの演技は見事だったと評価しました。
また是枝監督は安藤サクラの演技についてインタビュー内でこう表現しています。
「あのシーンの凄いところは、ほとんどがアドリブに近い演技だったのにも関わらず、あそこに座っていたのはずっと信代だったことです。」「安藤サクラではなく、信代が信代として泣いているシーンは見ていて鳥肌が立ちました。」
ぽろぽろとこぼれ落ちる涙を気丈に拭いながら強いまなざしで警察官の詰問に答えていく信代は母そのものでした。安藤サクラさんの女優としての底力を見たようでとても震える名シーンとなっています。
是枝監督の特殊な演出アプローチとは?
安藤サクラさんが魅せた渾身の泣き演技。実はこのシーン是枝監督お得意の演出アプローチによって生まれた神場面だったのです。
是枝監督はリアリティーを追求するため、役者に台本を渡さず口頭で大まかな内容を伝えるという手法をよく取るそうです。
この尋問シーンでは、安藤サクラさんをはじめ尋問する警察官役の池脇千鶴さんたちにも台本を渡さず、口頭やカンペだけで内容を伝えたそうです。そうすることである種の緊迫感と現実味のあるリアルな演技を演出することに成功したのです。
是枝監督が使うこの手法は映画『誰も知らない』などにも積極的に使われているんだよね。
そのおかげもあってか是枝作品の子役たちはリアルな演技をみせてくれるから好きだなぁ。
濡れ場のシーンは急遽とられたものだった?
安藤サクラさん演じる信代とリリー・フランキーさん演じる治が子どもたちのいない間に愛し合うという濃密な濡れ場が「万引き家族」の劇中でありました。
妙なリアリティーがあって鼻血が出そうなのを我慢した方も多いのではないでしょうか。
この濡れ場シーンは当初上手くカメラアングルで隠して撮るから裸にはならないと伝えていたそうです。
しかし現場に行ったお二人の前にあったのは股間を隠す前張りでした。
リリー・フランキーさんは困惑した様子だったそうですが、安藤サクラさんは覚悟を決めたのかあっという間につけたそうです。
是枝監督はこの濡れ場シーンについて「だましたという感じではなくて、夫婦が本当の夫婦に見えないといけないと思って撮りました。」と照れながら打ち明けました。
松岡茉優さんの風俗店でのシーンも衝撃だったけど、安藤サクラさんの濡れ場シーンも生々しくて鼻血が出そうだった。
「万引き家族」は素晴らしい映画だけど家族で観るのはやめた方がいいかも笑。
万引き家族の関係性をわかりやすく解説!
映画「万引き家族」では血のつながりのない疑似家族の絆をリアルに描いた名作となっています。しかし家族の関係が映画中盤に差し掛かってから判明していくため、混乱している方も多いようです。
ここでは万引き家族もとい柴田家の相関図をわかりやすく紹介したいと思います。
表向きの相関図
表向きの家族構成は以下の通りです。
初枝おばあちゃんを年長者にその息子夫婦が同居するといういたって普通の家族構成となっています。
普通と少し違うと言えば、信代の妹である亜紀が同居しているくらいですが、こういったケースのご家庭も普通にあるので別段不審に思うほどではありません。
本当の相関図
柴田家の本当の相関図です。驚くべきことに全員が血の繋がらない他人でした。
こうしてみると他人同士というだけでなく子ども2人を誘拐している異常さが際立ちますね。
なぜ他人同士がこのような家族として暮らすようになったのか。その詳しいいきさつは後半にまとめています。
初枝と亜紀の相関図
初枝おばあちゃんと亜紀の相関図です。
初枝おばあちゃんと亜紀は万引き家族の中で唯一因縁のある関係性でつながっています。
初枝おばあちゃんの元夫は女性と駆け落ちして逃げるように離婚しました。
そして元夫とその女性は後に結婚し、子供を設けます。その子供が大きくなって成長し、やがて結婚して生まれたのが亜紀でした。
初枝おばあちゃんと亜紀の間には血縁関係はないものの他人とは言い切れない関係性があったのです。
このことは初枝おばあちゃんしか知らない事実でした。亜紀はこの関係性を警察に捕まったのち聞かされることになったのです。
初枝おばあちゃんはよく亜紀の実家に訪れ、元夫の遺影に線香をあげるという名目で亜紀の親から慰謝料(迷惑料)をもらっていました。
このお金は結局、初枝おばあちゃんが死ぬまで使われずに預金されていました。真意は不明ですが、後々このお金を亜紀に渡すつもりだったのではないかと思われます。
そう思わせるほど初枝おばあちゃんと亜紀の関係は良好で本当のおばあちゃんと孫のような温かな関係性だったのです。
治と信代のいきさつ
治と信代は過去に殺人を犯しています。
信代(本名:田辺由布子)には以前DVをふるう夫がいました。そこに当時働いていた店の常連だった治(本名:榎勝太)と出会います。
そして協力してDV夫を殺したのでした。この事件は裁判で正当防衛だったことが認められ、執行猶予がつきました。
その後、2人は初枝おばあちゃんと出会い、初枝おばあちゃんの息子夫婦として同居するようになりました。
初枝おばあちゃんのいきさつ
初枝おばあちゃんには夫がいましたが、別の女を作って駆け落ちしたことから離婚しています。
初枝おばあちゃんには息子夫婦が実在していてその名前が治と信代です。しかし疎遠となっていて会うことはありません。
そこに田辺由布子と榎勝太と出会い、自分の息子夫婦の名前を与え、一緒に暮らすようになりました。
亜紀のいきさつ
亜紀は父と母と妹の4人家族で暮らしていましたが、なんでもできる優秀な妹に深いコンプレックスを抱いていました。
そして親の愛情が妹に注ぎ込まれていると感じた亜紀は家出をすることにしました。
そして初枝おばあちゃんと出会い、一緒に暮らすようになりました。
祥太のいきさつ
祥太は赤ん坊の頃、松戸市のパチンコ店の駐車場で治と信代に連れ去られました。
当時の状況として車上荒らしをしていた治が炎天下の中、車内に置き去りにされてぐったりとしていた赤ん坊を見つけました。
このままでは危ないと判断した治と信代は赤ん坊を救い出し、保護という名目で自分たちの子どもとして育てることにしました。
りんのいきさつ
団地の外廊下に放置された女の子を見つけた治は夕食を与えるため、一旦家に連れ帰ります。食事を済ませた治と信代は女の子を家に帰すため団地に向かいます。しかしそこで見たのは女の子がいなくなったことにも気づかず、怒号を飛ばし合う男女の声がありました。
女の子の体に無数のあざがあることもあり、治と信代は女の子をゆり=りんと名づけ育てることにしました。
りんの本名は「北条じゅり」です。当初りんに名前を聞いたところ発音が聞き取れず、「ゆり」として家族の一員になりました。しかしその後、失踪事件が明るみになったことをきっかけにゆりの髪をばっさり切り、名前を「ゆり」改め「りん」に変えました。
万引き家族が伝えたかったこと
個人的な推測ですが、万引き家族というタイトルにはふたつの意味があると感じました。
ひとつは「物」の万引きを常習化している家族という意味。
もうひとつは「人」の万引きによって成り立った家族という意味。
治と信代は祥太をパチンコ屋で、りんを団地のそばで誘拐しました。これはいわば「人」の万引き(窃盗)と言い換えられます。
そういう意味では初枝おばあちゃんも治と信代、亜紀を万引きして自分の家族として引き入れたと考えることができます。
是枝監督は新しい家族の定義としてこんな家族をどう思うか伝えようとしていたのではないでしょうか。
- 犯罪を犯さないが、愛のない家族。
- 犯罪でつながった愛のある家族。
- 血の繋がった、愛のない家族。
- 血の繋がらない他人同士が寄り合った、しかし愛にあふれた疑似家族。
私たちはニュースでこれらをどう判断するのでしょうか。愛は文面からではなかなか伝わりません。客観的にみた文面では特に感情の部分は排除されがちです。
犯罪を犯さない家族。
血の繋がった家族。
を正常として捉え、
犯罪でつながった家族。
血の繋がらない他人同士の疑似家族。
を異常として捉え、悪として認識してしまいます。
事の真相は本人たちの心にしかありません。外側だけではなく、内側に目を向けることで印象が180度変わることもあるのでしょう。そんな柔軟な考え方が世の中には必要なんだと感じた素晴らしい映画でした。
是枝監督が突きつける題材はいつも考えさせられるものばかり。
でも観終わった後には、人生に深みが増したような満足感が得られるからクセになる。
初枝おばあちゃんはなぜ偽家族をつくろうとした?
初枝を演じた樹木希林さんは撮影中、是枝監督に「なぜおばあちゃんは血のつながりのない偽物の家族を作ろうとしたのか」何度も尋ねたそうです。
寂しさから?お金が目的?居場所のない人たちを救うため?何度聞いても是枝監督ははぐらかしたまま答えを教えてくれませんでした。
樹木希林さんも最後には是枝監督の言うとおりにするわ。と言って答えを聞くことをやめたようです。
是枝監督はできるだけおばあちゃんの真意を樹木希林さんに伝えないようにしていたのではないでしょうか。それは是枝監督自身にも分からない現象や動機が人にはあることを伝えたかったからのように思えます。
「観た人に感じて、考えてほしくて、あえて答えを提示するという方法を取らなかった。」個人的にそう感じました。